野良犬ジョン

昨年の暮れ、地下鉄の中でたまたま隣り合わせた素敵な女性と知り合うご縁があり、
数日後、その方(Aさん)から、あるお話をうかがうことになりました。
20年近くも前、Aさんが一時期過ごされていた北陸のある町では当時、
野良犬の集団(半数程は放し飼いの犬)がよくいたそうです。
動物好きなAさんは、ある野良犬グループに親しみを感じ、時々パンをあげたり、
交流を楽しんでいたといいます。

特に可愛がっていたのは片脚の悪い黒い犬で、女の子なのに青い首輪に「ジョン」
という名前があったそうです。どこかに飼い主がいたのでしょう。
しかしジョンは近所の家の軒下で子どもを産み、
通行人を威嚇したことから保健所に送られてしまいます。

Aさんがそれを知って保健所に連絡した時には、すでにジョンは処分された後でした。
Aさんは、ご自身が中途半端な可愛がり方をしたために、ジョンに残酷な死なせ方をしてしまったと、
そのことを「忘れてはいけない心のくさび」だとして深い自責の念を持ち続けていらっしゃいました。
ジョンに穏やかで幸せな魂になってほしい、と私にヒーリングを依頼してくださいました。

セッションではジョンの魂にすぐに繋がりました。
生き生きと明るい、満ち足りた雰囲気が伝わってきました。
Aさんのお気持ちを伝えたところ、ジョンは
「Aさんのような人がいたからこそ、人間を好きでいられた。」と言っていました。
そして、「あの町での暮らしは、けっこう楽しかったし良い犬生だった、
今も何の問題もないよ!」とぴょんぴょん跳ね回って伝えてくれました。

でもその時、ジョンが捕まって連れていかれた時の、その恐怖の映像が、
サッと浮かんで見えました。とてもショックではあったのでしょう。
今はもう何の影響力もない情報でも、どこかに残っていたのだと思います。
そこはクリアにしていきました。

それからジョンは、Aさんに心からの感謝を伝えてきました。
それは深い深い、あたたかい感謝で、まるで霧のような慈雨が、空間をさわさわと濡らし、
微細な輝きで満たしていくようでした。

ジョンにはヒーリングは必要ではありませんでした。
ヒーリングが必要なのはAさんでした。ジョンにはわかっていたのです。
ジョンの力を借り、Aさんのハートを癒してあげようね、と言って、
そのご記憶にヒーリングをさせていただきました。

私たちは愛しい動物が天国に行った後でも、つい後悔したり心配してしまいます。
でも動物たちは、受け入れることにかけては、人間よりずっと早いようです。
天界でのサポートもたくさんあるのだと思います。
ただ彼らは、好きな人に笑顔でいてもらいたいと思っています。
愛してくれた人間を自分のせいで悲しませることは、彼らにはとてもつらいのです。

ジョンが死んだのは、Aさんの責任ではありません。
しかし優しいAさんは長い間、「心のくさび」を引き受けていらっしゃいました。
ジョンは感謝とともに、そのくさびを外してもらいたかったのだと思います。

地下鉄でのAさんとの出会いは、ジョンがお膳立てしてくれたのかもしれません。
そして今、このようにささやかな文章を書きながら、やはりこれも、
ジョンが書かせてくれているような気がしています。